民間武術探検隊・外伝
−ある隊員の記録−
第五話 怒りの排打功事件
『排打功』。中国武術に伝えられる鍛練法の一つで、腕や脚、時には頭などを
木や壁に打ちつけて、骨や皮を鍛えるものである。内功として行う事もある。こ
の功法に習熟した者の一撃は、恐るべき破壊力を持つという。
−民間武術探検隊辞典(中国武術練功編)−より
第二次民間武術探検隊帰国の日、不測の事態が起きた。我々の乗るはずだった
便の席がなぜかキャンセルされていたのであった。
それは常松隊長の怒りの早口中国語連打攻撃をもってしても、どうする事もで
きなかった。
「まぁ、しょうがないや」とあきらめの早い、お気楽な隊員達は、途方に暮れ
る(^_^;真面目な一部の社会人隊員達を残して、民間小姐・・・ではなく、民間武術
探検のため、街へと繰り出して行った。(ちなみにぼくは街組。ここから先の話
しは某隊員から聞いた話だ。)
隊員の中には、塾講師、会社社長などもいて、年始早々(この時の探検は正月
休みを利用したものであった。)からの欠勤は、立場的に結構まずいものがあっ
た。
そんなホテル組隊員の所へ、朗報が入る。航空会社からの連絡で、いま直ぐ空
港に来れば、席があるというのだ。全員分の席は確保できなかったが、幾つかは
とれたという事であった。
そこで、急ぎの用がある隊員を優先して、急遽二台のタクシーで空港へと向か
う事になった。
中国のタクシーの運ちゃんの走りは熱い。一般道でも百キロ位は平気でだす。
しかも、信号も結構いいかげんだ。しかし、こういう一刻を争うような時には、
頼もしいかもしれない。
先に出たタクシーに乗った隊員達は一足早く空港に着くと、二台目のタクシー
に乗った隊員達を待った。が、なかなか来ない。出発の時間も迫り、「遅い、遅
いぞー」と焦っていると、フロントガラスが真っ白になったタクシーがやって来
た。その車は後発の隊員達が乗った車であった。
聞けば、猛スピードでとばしていた運ちゃんが、何かで急ブレーキをかけ、助
手席にシートベルトをしないで座っていた○○師兄が、フロントガラスに頭から
突っ込んだという事だ。
だが、恐るべき事に、車のフロントガラスは、ひびが入って真っ白になってし
まったが、○○師兄の頭はなんともなっていなかったという・・・。
しかも、そんな思いをしてまで空港に行った○○師兄だが、結局、飛行機には
乗れなかったという悲しさ。
それ以来、その事件は「○○師兄怒りの排打功事件」として密かに語り継がれ
ているという。
民間武術探検隊 隊員 わたる