民間武術探検隊、再び

民間武術探検隊−大連を行く−

第一章  師兄弟

     我々「民間武術探検隊」の今回の目的地は大連である。日中武術交流協会として     の民間武術探検は過去四回行われている。第一次探検は河南省鄭州。第二次は遼寧     省大連。第三次は山東省青島、済南、煙台。第四次は遼寧省大連である。つまり今     回の大連は三回目なのである。ぼくは第四次以外の探検に参加している。     「大連は通背拳が盛んである」との情報を入手はしている。しかし、1991年に行     った第二次探検では、「秘宗拳が専門だが通背拳も知る」という民間武術家に接触     はしたが、時間の関係で僅かに話しをしたに過ぎない。1994年の第四次探検隊は直     接接触はしなかったが、通背拳と陳氏太極拳を練習する民間武術家を見かけたそう     だ。      今回我々は第四次探検隊が見かけたと言う通背使いの民間武術家に接触し、交流     をしようと画策していた。      さて大連到着後「民間武術家の朝は早い。が、そんなには早くない」に修正     された情報(「民間武術探検隊は行く」参照)に基づいて、之師兄隊員達と明日か     らの民間武術探検の作戦を練る。非常識に朝早くは練習しないとわかってはいるが、     懲りずに4時起きで探検に出かける事に決まった。場所は今回の宿舎「松山賓館」     の向かいにある労働公園である。      作戦会議終了後、明日の探検の準備をしていると之隊員がやってきて「常松老師     がかつて大連にいた時、通背拳を伝授した人達が部屋に来ている。師兄弟だと言う     と話しが通じた。」と我々(清水師兄隊員と僕が同室。ちなみに常松老師と之隊員     が同室)に告げる。「な、なんだってぇ〜。」と早速、常松老師の部屋に向かう。     常松老師の中国での学生には、まだ会った事が無いのである。      部屋に入ると、あいにく、常松老師は所用で外出していた。中には、身体のでか     い髭の男と中肉中背のすっきり顔の男が椅子に腰かけていた。      とりあえず挨拶をする。民間武術探検隊の基本だ。すっきり顔の男は少し日本語     が出来るようだが、例によって怪しい日本語だ。     「常松老師に通背拳を習っていたと聞いたのですが・・。」と切り出すと「そうだ。     1969年に習い始めた。でも今は練習してない。」と言う。(民間武術家に限らず中     国人は年にはうるさい。必ず西暦で何年と答える。凄い奴になると年月日まで言う。     事実、すっきり顔の男は,「1994年2月10日に自由が丘教室に常松老師を訪ねた事が     ある」と言っていた。常松老師も「何年に誰それに会って何をした」とかを異様に     憶えている。)そうか〜、練習してないのか。      しかし、我々はしつこい。「民間武術家は秘密主義である」との情報もある。     日本から持参した「祁氏通背門技表」を見せ、いろいろ質問する。「昔の事で良く     憶えてないが、大体同じようなものだ。」と言う。ぼくの怪しい中国語では突っ込     んだ質問もできないので、大した情報は得られなかったが、練習をやめ、内容を良     く憶えてないのは本当のようだ。残念な事である。      そこで明日早朝、労働公園に探検に行く事を話すと、「おし、俺達が案内してや     ろう。5時に待ち合わせだ。」と髭の男が言う。「ををっ、ラッキー!!」「よろ     しくお願いしま〜す。」と頼む。「OK,OK」と髭の男は自信がありそうだ。      そのうちに常松老師も帰ってきたので、公園を案内してもらう件を告げると「よ     ろしく、頼む。」と老師のほうからも言ってくれた。     「よっしゃあ、これで明日の探検はばっちり。」と我々は嬉しさのあまり三合炮を     しながら部屋に戻り、早朝からの探検に備えベッドに入った。      (続く)      語句解説      ○「大連は通背拳が盛んである」        祁氏通背門小架式第三代伝人『修剣痴』先師により、遼寧省大連、沈陽を        中心に通背拳が広められた。      ○秘宗拳       秘宗拳、又は燕青拳とも呼ばれる。燕青拳はバーチャファイターの陳白(パ       イ・チェン)嬢が使う門派であるが、バーチャのは実際の技術に基づいて作       られたとは思えない。秘宗拳も大連では盛んな門派である。多彩な蹴り技と       独特の巧妙な歩法が特徴である。      ○「民間武術家の朝は早い。が、そんなには早くない」        『民間武術探検隊は行く』参照。民間武術家は早起きだけど、ちょ〜早起        きって程ではない(まんまだな(^_^;)。


第二章 白い服の男

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